トマト
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黄化葉巻病
写真1 TYLCVによる黄化と葉巻症状
写真2 TYLCVイスラエル系統を接種した麗旬
写真3 TYLCVイスラエル系統を接種した罹病性品種
原因・症状
トマト黄化葉巻病は、Tomato yellow leaf curl virus (TYLCV)によるタバココナジラミによって媒介されるウイルス病です。
国内ではタバココナジラミが分布する地域で発生が確認されていて、現在は東北の南部まで発生が拡がっているとされています。
タバココナジラミは多くの植物種を寄主とし、本ウイルスの宿主となる植物もトマトだけではありません。
トマトを片付けても周辺の雑草が本病に感染してい れば、次作のトマトでもタバココナジラミを介して感染してしまうこともあります。
日本で発生しているTYLCVは主にイスラエル系統とマイルド系統の2 系統が確認されていますが、見た目の病徴からは識別が困難です。
典型的な病徴は写真1のような茎頂部の退緑や黄化、葉巻症状で、これらを原因 とする生育不良が減収に繋がります。
対策
本病害はタバココナジラミによって伝搬されますが、接触伝染や土壌伝染、種子伝染では発生しません。
よってタバココナジラミの防除をきちんと 行なえば、被害が増えることはありません。
施設の開口部に防虫ネット(0.4mm目 以下)を張り、虫の侵入を防ぎ、圃場周辺の除草や登録のある殺虫剤を適切に使用することにより、虫の侵入や増殖を抑えます。
さらに大玉トマト「かれん」「麗妃」「麗旬」などの耐病性品種を使用することで症状を抑えることが可能です(写真2、3)。
これらの耐病性品種は病徴を抑えますが感染はしますので防虫を怠らないように注意してください。
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黄化病
写真4 ToCVによる葉脈間の黄化
写真5 ToCVによる葉の黄化と紫化
原因・症状
トマト黄化病はTomato chlorosis virus (ToCV)によるコナジラミによって媒介されるウイルス病です。
黄化葉巻病 とは異なり、タバココナジラミだけでなくオンシッコナジラミによっても媒介されます。
病徴としては写真4のような葉脈間の黄化を生じ、下葉から上葉に向かって徐々に発病するのが特徴的です。
この症状は苦土欠乏症に酷似していま黄化す。
症状が進むと葉先の紫化や葉巻、えそ症状を示すこともあります(写真5)。
黄化葉巻病よりも被害の程度は軽いですが、生育は抑制されるので減収します。
対策
対策としては、黄化葉写真5ToCVによる葉の黄化と紫化巻病同様に発病株の抜き取りとコナジラミの防除をしっかり行います。
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黄化えそ病
写真6 TSWVによる黄化退緑症状
写真7 TSWVによる葉の輪紋状えそ
写真8 TSWVによる果実えそ
原因・症状
トマト黄化えそ病はTomato spotted wilt virus (TSWV)によるアザミウマによって媒介されるウイルス病です。
一旦発病すると被害が大きく、トマト、ピーマンなどのナス科植物の他に、キクやガーベラなどの花井にも発生します。
感染した植物体は最初、写真6のように茎頂部の葉に退緑、黄化症状が生じ、やがて黒褐色の輪紋状のえそ斑が現れます(写真7)。
葉柄や茎にもえそ条斑を生じ、重症になると枯死します。
果実には写真7TSWVによる葉の輪紋状えそ褐色のえそが発生して奇形となり、著しい減収となります(写真8)。
対策
本病害は人工的には汁液伝染しますが、自然には主にアザミウマによっ伝搬され、土壌伝染や種子伝染はしません。
防除対策としては施設の開口部に防虫ネット(0.4mm目以下)を張ることで虫の侵入を防ぎ、発病した苗は見つけしだい抜き取り処分します。
虫が増殖しないように登録のある殺虫剤を適切に使用します。
周辺にキク科植物を栽培している場合には特に注意が必要です。
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トマトモザイクウイルスによるモザイク病
写真9 ToMVによるモザイク症状
写真10 ToMVによる果実の色むらとえそ
原因・症状
トマト モザイク病はウイルスによって発病するモザイク病害の総称です。
Tomato mosaic virus (ToMV)に感染すると写真9のような葉色が濃淡となるモザイク症状が現れます。
果実には写真10のように色むらや奇形が生じ、全身にえそ症状を起こすこともあります。
本ウイルスは芽かき誘引などの作業による接触伝染や種子伝染によって伝搬されます。また発病残渣が土壌中に残ると土壌伝染でも感染します。
対策
抵抗性品種を栽培することによって防除することができます。ほとんどの現行品種はTm-2またはTmグ型の抵抗性を持ちます。接木栽培をする場合、これらとTm-1型または罹病性の品種を組み合わせないように注意してください。穂木と台木の抵抗性因子が異なる場合、ウイルスが感染すると植物体は枯死してしまいます。
発病した株は見つけしだい抜き取り、適切な方法で処分します。
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青枯病
写真11 青枯病による全身萎凋
写真12 青枯病による導管褐変
写真13 茎切断面から水中に流出する青枯病菌の白濁菌泥
原因・症状
トマト青枯病は細菌による土壌伝染性病害で、感染した植物は 写真11のように日中水分を失ったように萎れます。
朝夕には回復しますが、しだいに全体が萎れて青いまま枯れます。
発病した植 物の茎を切ると写真12のように導管部に褐変が見られ、水につけると切り口から白濁した菌泥が流出してきます(写 真13)。
地温が20℃以上になる高温期に発生の多い病害ですが、施設栽培では厳寒期を除き年間を通して発生する恐れがあります。
複数の植物種を侵す多犯性の病害ですが、特にトマト、ナス、ピーマン、 ジャガイモなどのナス科植物で被害が大きくなります。
対策
防除対策としては耐病性の台木を利用した接木栽培が 般的です。
草勢を強くしたい場合は「アシスト」、自根並みに栽培したい場合は「シャットアウト」など、用途によって台木品種の使い分けを行います。
被害が大きい場 合、太陽熱や蒸気または薬剤による土壌消毒を併用します。
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かいよう病
写真14 かいよう病による葉枯れ症状
写真15 かいよう病による茎内部の空洞化
写真16 かいよう病による果実の鳥目状病斑
原因・症状
トマトかいよう病は細菌による病害で、感染した植物は最初、下葉の周縁部が萎れます。
萎れた部分はしだいに乾燥して茶褐色に乾燥し、上方に巻きあがります(写真14)。
茎の導管は薄茶色く変色し、病徴が進むと写真15のように茎内部が空洞または綿状となり、株全体が萎れます。
極稀に果実の表面に白い鳥目状の病斑を形成することがあります(写真16)。
発病適温は25~27℃で、一般的に春や秋に発生が多いです。
本病害は種子伝染、土壌伝染、灌水や摘心・摘芽などの栽培管理によって伝染します。
対策
発病してからの薬散はあまり効果写真15かいよう病による茎内部の空洞化がないので防除は耕種的な対策が中心となります。
発病株は見つけしだい抜き取り、適切な方法で処分します。
摘芽などの作業はできるだけ晴天時に行い、降雨や早朝の露で茎葉が濡れている時間帯を避けます。
はさみや手、指による伝染を防止するためエタノールなどで消毒を行います。
常発する場合、床土や圃場の土壌消毒を行う必要があります。
以上に加え耐病性台木「アシスト」を利用するとより効果が期待できます。
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疫病
写真17 疫病による葉の初期症状
写真18 疫病による葉および葉柄の褐色病斑
原因・症状
トマト疫病は20℃くらいの比較的低温で多湿の条件下で発生しやすい糸状菌による病害です。葉、茎、果実のいずれにも発生します。葉には最初、写真17のような水浸状の暗緑色写真17疫病による葉の初期症状の病徴が発生し、やがて拡大して写真18のように暗褐色の病徴になり、葉柄にも発生します。 茎には暗褐色の大型病斑を形成しますが、晴天が続くと乾燥してもろくなります。湿度が高いときには葉や果実の病斑部に白色霜状のかびが発生します。
対策
梅雨または秋雨の低温多湿期に発生が多いです。
対策としては、マルチの利用や換気を行い多湿にならないように栽培管理します。
窒素肥料が多いと苗が軟弱となり、病気が出やすくなります。
発病株は直ちに除去し、登録のある農薬を適切に散布します。
病勢が早く一度発生すると防除が困難なので、できるだけ予防を心がけます。
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灰色かび病
写真19 灰色かび病による茎の腐敗
写真20 灰色かび病による果実の軟化腐敗
写真21 灰色かび病によるゴーストスポット
原因・症状
トマト灰色かび病は多犯性の糸状菌による病害で多くの作物で発病し、果実、花、茎、葉などあらゆる箇所に発生します。
茎に発生すると被害部は褐変して灰色のかびが生じ、内部の維管束まで被害が及ぶと発生場所から上位の生育が不良になります(写真19)。
果実では被害部が水浸状となり、かびが生じて軟化腐敗します(写真20)。
また写真21のようなゴーストスポットと呼ばれる斑紋を作り、腐敗はしませんが品質の低下が生じます。
施設栽培で発生が多く、多湿条件で蔓延軟化腐敗しやすくなります。病原菌は被害植物とともに土壌中に入り、越冬して土壌伝染します。
対策
防除対策としては密植を避け、多湿にならないような栽培管理を行ないます。
花弁、被害植物の残漬があると次の発病源となりますので、速やかに取り除き適切な方法で処分します。
薬剤耐性菌の発生を防止するため、作用特性の異なる登録薬剤を適切に交互に散布します。
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葉かび病
写真22 葉かび病発生後期の葉の表裏の症状
写真23 葉かび病(左)とすすかび病(右)
原因・症状
トマト葉かび病は葉だけに発生する糸状菌による病害です。はじめ葉の表側に淡黄色の病斑が現れ、やがて葉の裏側に灰色のかびが発生します。 かびは古くなると茶褐色に変色し、被害がひどくなると葉の表側にも発生して葉枯れを起こします(写真22)。着果不良や果実の肥大不良の原因となります。本病害は多湿になると発生しやすくなり、また、肥料切れや生育が衰えると発生しやすくなります。似たような病害としてすすかび病があります(写真23) 。
対策
対策としては抵抗性品種の利用が一般的ですが、抵抗性品種を侵すレースが近年増えてきています。耕種的には多湿にならないように換気や栽培密度などを管理し、登録のある農薬を適切に散布し、できるだけ予防を心がけます。
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褐色根腐病
写真24 褐色根腐病による根のコルク化
写真25 褐色根腐病接種試験弊社耐病性台木(左)と他社罹病性穂木品種(右)
原因・症状
トマト褐色根腐病は糸状菌によって発生する土壌病害で、主に根が侵されます。
感染すると細根は褐色に腐敗して脱落します。
主根は褐色に変色し、コルク化し写真24 褐色根腐病による根のコルク化て表面がかさかさになるのが特徴です(写真24)。
病害の英名『コルキールート』という呼称も一般的に使われています。
症状が進むと地際の茎にも腐敗が生じることがあります。
根が侵されるため、土壌中からの水分吸収ができなくなり、日中晴れると茎葉が萎れます。
やがて感染した植物体は黄化して、完全に枯死します。
年間を通して発生しますが、比較的低温で発生しやすいため特に促成栽培で被害が多いです。
病原菌は被害根とともに土壌中に存在し、土壌伝染します。
対策
防除対策として、被害根はできるだけ圃場に残さないようにします。
「シャットアウト」などの耐病性台木を使用した接木栽培を利用します(写真25) 。
被害がひどい場合、薬剤による土壌消毒、もしくは米ぬかやふすまなどを使用した還元消毒を併用すると非常に有効的です。
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フザリウム株腐病
写真26 フザリウム株腐病による根と地際部の腐敗および白色菌糸
写真27 フザリウム株腐病が発生した地際の断面
原因・症状
トマトフザリウム株腐病は土壌伝染性の糸状菌による病害です。
似たような病害として根腐萎凋病(J3)やリゾクトニア株腐病があります。
生態や病原性について不明な点も多いですが、徐々に発生地が拡大している様子です。
本病は定植後に発病します。
最初に主根から発病が始まり、写真26のように褐色の病斑が地際部まで到達すると茎がくびれて内部も侵されるため地上部の葉が萎れます(写真27)。
また、茎の発病部に白色菌糸を生じることがあります。
葉、花弁、果実にも発病しますが、圃場で主に観察されるのは地際部のくびれ症状です。
対策
本病に対する抵抗性品種はないので、耕種的な防除が主な対策となります。
地際付近の湿度が高くならないように管理し、罹病残渣はできるだけ残さない様に除去します。
発病が多い様であれば土壌消毒を行います。
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根こぶ線虫病
写真28 サツマイモネコブセンチュウによるネコブ
写真29 ネコブセンチュウと褐色根腐病の併発
原因・症状
トマト根こぶ線虫病はネコブセンチュウが根に寄生し、写真28のように根の組 織をこぶ状に肥大させる病害です。
こぶができると根からの吸水が抑制され、乾燥すると萎れます。
やがて葉が黄化して枯死します。
ネコブセンチュウに感染すると青枯病や褐色根腐病など他の病害も併発しやすくなります(写真29) 。
ネコブセンチュウの種類にはサツマイモネコブセンチュウ、ジャワネコブセンチュウ、キタネコブセンチュウ、アレナリアネコブセンチュウなどが存在します。
地温が10℃以上になると活動し始め、夏や秋に被害が大きくなります。
対策
抵抗性品種が市販されていますが、地温が高くなると抵抗性が打破されることがあります。
また近年、抵抗性品種を侵すレースが増えています。
抵抗性品種の利用だけでなく、登録のある薬剤による土壌消毒やふすまなどを使用した還元消毒法などを併用して、総合的に防除を行うことを奨励します。