『はじめに』
オクラは高温性の作物で生育適温25~30℃ですが、夏場の高温にも耐えられ安定的に青果物の収穫が続けられる品目になります。しかし、近年の天候不順(低日照や乾燥によるイボ果)やゲリラ豪雨(発芽不良や根痛みによるアントシアン果)などの影響で生理障害果の発生が多くみられています。また、7月からは各産地の収穫最盛期になり価格が安定しますが、4~5月の青果物は高値で取引されるため、収穫が早く行える早生品種が望まれています。
上記の特性である早生性・生理障害果の発生の少なさ、そして収量性と棚持ち性を重視して選抜を行った品種が『ジュピター』になります。
『ジュピター』は長期多収型で収量性に優れ、生理障害果の発生が極めて少ない早生品種です。収量性においては低節位から着果することや、頂芽数が多いこと、1度に2花咲き着果することもあり収穫果数が多い結果が出ています。生理障害果においては、近年の異常気象(高温乾燥・ゲリラ豪雨による根痛みなど)に強く、等級が落ちる原因となるイボ果・曲がり果・スレ果・アントシアン果の発生は極めて少ない結果が出ています。
オクラは高温を好む作物であり、産地は九州・四国などの地域に多くありますが輸送中の果の変色(黒ずみ)やしなびが問題となっています。『ジュピター』は産地の試験を通しても棚持ち性に優れている結果が出ています。
(株)武蔵野種苗園 新治育種農場 金井 俊充
ジュピターの品種特性と栽培のポイント
品種特性
-
高収量
低節位から着果し初期収量性に優れ、頂芽数が多く栽培後半まで収量性に優れます。
初期草勢にもよりますが、平均して5節前後から着果し始め収穫始めが早いのが特徴です。また、生育に勢いが出てくると2花同時に開花することもあり収穫果数が多い特徴があります。生長点にある蕾の数を頂芽数といいますが、栽培後半でも蕾の数が多く最後まで収穫が行える品種です。
高収量で生理障害少なく
食味に優れるオクラ
-
生理障害果の発生率の低さ
下記のような生理障害果は昨今の異常気象下でも極端に少ない結果が出ています。
イボ果
草勢の強弱、低温、乾燥、日照不足などで発生。
曲がり果
虫害、果実への傷、受粉不良などで発生。
スレ果
台風や強風時に葉が果実に擦れることで発生。収穫後の変色(黒ずみ)にも影響。
アントシアン果
低温、根の傷みなどのストレスにより発生。
生理障害果の実例
イボ果
曲がり果
アントシアン果
写真は、大雨により水に浸かったことによる根痛みが原因と思われるアントシアン果の例
対策
・根の活性が戻るまで葉面散布などで肥料を補う
・酸素供給剤を使用する -
果色
「スターライト」よりも果色が濃く、濃緑色で光沢があり鮮やかで市場性が高いです。
-
棚持ち
しなびや収穫後の果実が変色(黒ずみ)しにくく、棚持ち性に優れます。
-
草姿
草勢は中程度で栽培後半まで維持しやすい。節間・葉は中程度で管理のしやすい草姿です。
-
適応作型
ハウス栽培から露地栽培まで適応作型が広い品種です。
栽培のポイント
-
土作り
土壌適正は広くpHは6.0~6.8を目安にします。直根性の作物で根が深くはいるので耕土が深く排水性、有機質に富む土壌が最適で、堆肥や緩効性肥料の効果が高いです。連作によるネコブセンチュウの被害が大きいため、土壌消毒や輪作体系のなかで栽培を行ってください。
-
播種
無理に早まきすると、発芽の不揃いや苗立枯病が多発するので、マルチなどを使用し地温が十分確保できるようになってから播種します。播種後に大雨が降らないことを確認してから播種を行います。一昼夜水に浸漬処理し1穴あたり5〜6粒まき、種子を指押し1cm程土をかけます (播種後、不織布などを掛けて発芽を揃えてから除去する)。
発芽の目安
25〜30°C 3〜4日 20°C 7〜10日 15°C 15〜20日 ※苗立枯予防で播種時に薬剤で対策をする。
-
栽培管理
間引き
本葉3~4枚時に1穴3本にハサミで間引きます。
摘葉
第一花開花時に強草勢の場合は下葉を2~3枚摘葉してください。
収穫以降は収穫果の下葉1枚を残し摘葉してください。
栽培後半は、葉面積を確保する為に葉はやや多めに残すようにしてください。追肥
1回目は3~4果収穫時、N成分10a当たり2kg
第2回目以降は2週間毎に草勢を考慮しN成分で10a当たり2kg灌水
苗立枯病を防ぐため、本葉が展開するころまでは過湿にしないようにしてください。本葉展開後は適湿を心がけ、夏場の高温期は積極的に灌水を行ってください。
その他
台風対策として、ハウスバンドなどで倒伏しないように対策を行なってください。
開花位置で判断!!
草勢診断
状態 草勢が弱い 草勢が適当 草勢が強い 摘葉枚数 着果節から4〜5枚の葉を残す。 着果節から1〜2枚の葉を残す。 着果節までの葉を取る。収穫と同時に葉をかく。 葉 葉が小さく、葉色が淡くなり刻みは深くなる。
葉は15〜20cmで節間は5~15節で、約5~6cm程度。
葉は大きく、切れ込みが浅く葉色が濃くなる。茎も太くなる。
花 生長点のすぐ近くで咲き、花は小さくなる。 花は程よい大きさで、生長点から展開葉3枚下で開花。 花は大きく生長点から4〜5枚下で開花。 時期 収穫最盛期8月下旬以降、なり疲れと乾燥による草勢の低下 着蕾期~開花始めの生育初期になりやすい。下位節で着果不良。 対策 灌水・追肥・葉面散布強めの摘葉・葉面散布 -
病虫害対策
注意する病害
苗立枯病、半身萎凋病、葉すす苗、うどんこ病、灰色かび病、菌核苗、葉枯れ細菌病
立枯病
(リゾクトニア属菌ピシウム属菌)連作地で発生が多く、低温と土壌の多湿条件下で助長対策:薬剤散布
葉枯れ細菌病
病斑の周辺部は濃褐色、中心部は淡褐色。病斑に穴は開かない。対策:薬剤散布(カスミンボルドーやカッパーシン水和剤など)
ウイルス病害
生長点や側枝が黄色くなる。対策:異常な株は、抜き取り(切り取り)処分する
注意する害虫
ネコブセンチュウ類、アブラムシ類、オオタバコガ、ハスモンヨトウ、カメムシ類、フキノメイガ、ハマキムシ など
ハマキムシ(ワタノメイガ)
葉の食害による光合成能力の低下対策:薬剤散布
ヨトウ・アブラムシ
6~10月まで発生。葉裏や生長点に寄生。対策:薬剤散布
-
収穫
天候にもよりますが、生育が順調であれば2か月ほどで収穫が始まります。
産地により規格は変わりますが、Mサイズ(果長8〜10cm+果梗部1cm)を目安に収穫を行い、取り忘れによる規格外品を出さないように注意してください。2花咲くこともあり収穫本数が多い。同時期に着果をするので、同じ日に2果の収穫が望める。
ハウスでの栽培風景。ハウスの作型でも収量性に優れる。
+α オクラのセル苗事情
普通路地の作型よりも2週間ほど早く収穫が期待できます!
播種を早め、販売単価の良い早期に収穫を行うことができます。
また、立ち枯れ対策として有効です。
育苗のできる空ハウスや立枯性病害が起きる圃場での栽培にお勧めです。
作型例:4月播種→5月定植(遅霜の心配のない5月に定植ができるように播種。)
注意:オクラは直根性なので老化苗は絶対禁止。根を傷めないように気をつける。
2023.7.16放送「たわわのわ」より
※キャンペーン情報などは終了しております